こわいものみたさ|おすすめホラー小説の書評

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【ホラー小説書評】死者の体温/大石圭

死者の体温 (角川ホラー文庫)

あらすじ

 安田祐二は30歳。砲丸投げの元日本代表選手で、今は不動産管理会社の経営企画室に勤めるエリート会社員。ハンサムで温厚。にこやかで職場や近所での評判もよく、湘南の洒落た高級マンションに1人で暮らし、クラシック音楽とスコッチウィスキーを愛し、野良犬を可愛がり、野鳥に餌をやり、そして……次々に人を絞め殺し、下田の別荘の庭に埋めているのだった……。トラウマも動機も悪意もない史上最悪の連続大量殺人!!

 

書評

この小説の主人公は大石作品に多い「表向きは真面目で好青年、音楽と酒を好み湘南付近に住んでいる男」です。そんな男が実は大量殺人鬼、という話です。

 

主人公の殺人のこだわりは、「殺す相手の人生を詳しく知ること」。愛されて育てられたという女子高生の話を一通り聴いた後で殺し、これから訪れるであろう幸せや子孫を奪うという行為に快楽を感じる変態性がある。そこに罪悪感や恐怖は一切ない。

途中から「なぜ自分はこうなってしまったのか」を自問自答するシーンがあるように、若干自分自身に困惑しながらも殺人を止められない主人公の破滅までを描いた作品です。

 

殺人シーンはもちろん多いですが、それより被害者の描写や主人公の表向きの平凡な生活の描写が長く、若干中だるみするかもしれません。恐らくその「平凡さ」と裏で行われている「異常さ」の対比を描いているのかなと思います。

 

こんな人におすすめ

  • 理不尽な殺人の話が好きな人
  • 大石作品特有の「エリート殺人鬼」が好きな人